「自分と向き合ったほうがいい」と、よく言われます。でも、いざやろうとすると気が重い。心のどこかが「触れたくない」と身構える。自分と向き合うことを調べる人の多くは、その方法だけでなく、なぜこんなに気が進まないのかという戸惑いも抱えているはずです。
この記事では、まず「向き合うのが怖い・つらいのは自然なことだ」という話をしてから、深く潜りすぎずに——記録という軽い入り口から、無理なく自分に近づいていく方法を書きます。気合いで自分を抉じ開ける話ではありません。
自分と向き合うとは、ひとことで言えば、ふだん見ないようにしている自分の気持ちや本音に、目を向けることです。「本当はどう感じているのか」「何が嫌で、何が大事なのか」。忙しさや我慢でふたをしてきたものに、少しだけ近づく作業です。
似た言葉に「自己理解」や「内省」がありますが、ニュアンスは少し違います。自己理解は自分の傾向を冷静に知る作業、内省は出来事を振り返って次に活かす作業で、どちらかというと分析的です。それに対して「向き合う」には、感情に触れる・本音に直面するという、もう少し勇気のいる響きがあります。だから怖さや抵抗を伴いやすいのです。
最初に、いちばん伝えたいことを。自分と向き合うのが怖い、つらい、と感じるのは、あなたが弱いからでも、逃げているからでもありません。むしろ自然な反応です。理由はいくつかあります。
大事なのは、この怖さを「乗り越えるべき障害」と見なして気合いで突破しようとしないことです。怖さは、そこに自分にとって大事なものがあるというサインでもあります。だからこそ、いきなり深く潜るのではなく、浅いところから少しずつ近づく順番が要ります。
自分と向き合う方法として、よく「ノートに書き出す」「静かな時間をとる」「一人になる」が挙げられます。どれも有効ですが、つらい人にとってはハードルが高いことがあります。白い紙を前に「さあ向き合うぞ」と構えるほど、手が止まるものです。
そこで、向き合いを深さの段階に分けて考えます。下にいくほど深く、上から順に、できるところだけで構いません。
多くの解説は、いきなり第3段階(深い問いへの直面)から始めさせようとします。でも、しんどい人ほど第1段階から積むほうが続きます。記録という外部の足場があると、頭の中だけでぐるぐるするのを避けながら、自分に近づけます。記録の見返し方は日記の読み返し方に、気分の記録そのものは気分の記録にまとめています。
向き合いが自分への尋問にならないために、問いの形が大事です。コツは、「なぜダメだったのか」ではなく「何があったのか」「どうしたいのか」で問うこと。原因探しより、事実と望みに目を向けます。
今日、少しでも心が動いたのはどんな瞬間だった? / 何にいちばん時間とエネルギーを使った? / 本当は、誰に何を言いたかった? / 避けているけれど、気にかかっていることは? / もし制約がなかったら、明日どう過ごしたい?
一度に全部に答える必要はありません。ひとつ選んで、一行答えるだけで十分です。自分を責める言葉が出てきたら、「同じ状況の友人にも、その言葉を言うか?」と問い直してみてください。自分への接し方そのものについては、セルフコンパッションの記事でも扱っています。
毎日きちんと向き合おうとしなくて大丈夫です。気力のない日、しんどすぎる日は、向き合いを第1段階(気分を一つ記録するだけ)に下げるのが正解です。「今日は向き合えなかった」と落ち込む必要はありません。記録を一つ残せたなら、それはもう自分に向き合っています。
向き合いは、深く潜った時間の長さで決まるものではありません。長く続けて、自分のデータがたまっていくことのほうが、結局は深い理解につながります。1日だけ何時間も考え込むより、軽い記録を半年続けたほうが、「自分はこういうとき沈むんだな」という実感が、確かな形で見えてきます。気晴らしや対処の引き出しを増やす話はコーピングにも書きました。
最後に、大事な線引きを。自分と向き合うことは、自分を知るためのセルフケアであって、つらさそのものを治す方法ではありません。向き合おうとするたびに強く苦しくなる、気分の落ち込みや眠れなさが2週間以上続いている、生活や仕事に支障が出ている——そうしたときは、一人で向き合い続けるより、医療機関や相談窓口(厚生労働省の「こころの耳」など)に頼ることを考えてください。
人に頼ることは、向き合いから逃げることではありません。むしろ、自分の状態をきちんと見て「これは一人では重い」と判断できたなら、それ自体がいちばん健全な向き合い方です。そのとき、日々の記録は「いつから・どんな調子だったか」を伝える材料にもなります。
おかしいことではありません。自分と向き合うとは、ふだん見ないようにしている感情や本音に近づくことなので、怖さや抵抗が出るのはむしろ自然な反応です。怖さは「触れたくない大事なものがそこにある」というサインでもあります。無理にこじ開けず、今日の気分を一つ書き留める、といった軽いところから少しずつ近づけば十分です。
長い時間は必要ありません。毎日10秒、その日の気分とやったことを書き留めるだけでも、入り口としては十分です。むしろ、長く深く考え込む時間を毎日とろうとすると続かず、考えすぎて沈むこともあります。短い記録を毎日、深く考えるのは気が向いた日や週に1回、と分けるのが現実的です。
つらくなるなら、いったん深く掘るのをやめて構いません。向き合い方には深さの段階があり、いきなり過去や本心に潜らなくても、「今日はしんどかった」と事実を記録するだけで、それも立派な第一段階です。つらさが強い日は記録だけにして、距離を置いてください。気分の落ち込みが長く続く・生活に支障が出ているときは、一人で向き合い続けるより、医療機関や相談窓口に頼ることを考えてください。
気分とやったことをタップで選ぶだけ、10秒の日記アプリを作りました。深く潜らなくても、選んだ記録がたまっていくと「日曜の夜は沈みがち」「散歩があった日は気分が高め」のような、あなた自身の事実が静かに返ってきます。向き合いの第一段階を、できるだけ軽い形で。
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