ひびつみ
COLUMN

コーピングとは
ストレス対処の基本と、「自分に効く方法」を記録から見つけるやり方

2026年6月 ・ ひびつみ開発チーム

コーピングを検索すると、人事担当者向けの記事がずらりと並びます。組織の施策、離職防止、1on1。でも、この言葉を調べる人の多くは、もっと個人的な動機のはずです。自分のストレスと、もう少しうまく付き合いたい。この記事は、その個人のための入門です。

基本の整理に加えて、どの解説でも薄い「自分に効くコーピングを、どうやって見つけるか」——リストを作って終わりにせず、記録で育てるやり方までを書きます。

コーピングとは — ストレスへの「意図的な」対処

コーピング(coping)は、「対処する(cope)」から来た心理学の言葉で、ストレスを感じたときに、それを和らげようとして意図的にとる行動や考え方を指します。心理学者のラザルスとフォークマンが1980年代にまとめたストレス対処の研究(『Stress, Appraisal, and Coping』1984年)が土台になっています。

この理論の出発点はシンプルで、ストレスは「出来事そのもの」から自動的に生まれるのではなく、出来事と、それをどう受け止めどう対処するかとのあいだに生まれる、という見方です。出来事は選べなくても、対処は選べる。コーピングは、その「選べる側」を扱う技術です。

もう少しだけ理論を補います。ラザルスは、人が出来事に出会ったとき、まず「これは自分にとってまずいことか」を見積もり(一次評価)、続いて「自分はこれに対処できそうか」を見積もる(二次評価)、と考えました。同じ締め切りでも、脅威に感じる人と、やりがいに感じる人がいるのはこのためです。コーピングは、この二度の見積もりのあとに実際にとる行動や考え方を指します。だから「受け止め方そのものを変える」ことにも対処の余地がある——これが、次に出てくる情動焦点型の土台になります。

2つの型 — 問題に向かうか、気持ちを整えるか

コーピングは大きく2つの型に分けられます。

日本の解説では、ここに「ストレス解消型」(運動や趣味で発散する)を足して3種類にしたり、さらに「認知再評価型」(出来事の受け止め方を変える)や「社会的支援型」(人に相談する)まで分けて5種類にしたりすることもあります。ただ、細かく覚える必要はありません。大事なのは分類の暗記ではなく、使い分けです。変えられる問題には問題焦点型、変えられない状況には情動焦点型。変えられないものと格闘し続けるのも、変えられるものから目をそらし続けるのも、どちらも消耗します。

コーピングリスト — 手札は、些細なものを幅広く

実践の定番が、自分の対処法をあらかじめ書き出しておく「コーピングリスト」です。ポイントは、立派な方法を少しではなく、些細な方法をたくさん持つこと。

温かいお茶を淹れる / 窓を開けて1分外を見る / 階段を降りて上がってくる / 好きな曲を1曲だけ / 5分だけ散歩 / 風呂を熱めにする / 友人に短いメッセージ / 机の上を1箇所だけ片付ける / 「今日は早く寝る日」と宣言する / 気分と出来事を10秒記録する

些細でいい理由は、状況によって使える手札が変わるからです。職場で使えるもの、深夜に使えるもの、気力ゼロでも使えるもの。場面ごとに1つ以上あると、いざというとき「何もできない」が起きにくくなります。

もうひとつのコツは、リストは穏やかなときに作っておくことです。ストレスのまっただ中では、人は「何をすれば少し楽になるか」をうまく思い出せません。落ち着いている日にあらかじめ手札を書き出しておけば、しんどいときは頭をひねって「考える」のではなく、リストから「選ぶ」だけで済みます。これが事前に用意しておくいちばんの効きどころです。

本題 — リストは「記録」で、自分に効く順に育てる

さて、ここからがこの記事の本題です。コーピングの解説はたいてい「リストを作りましょう」で終わりますが、リストには続きがあります。同じ方法でも、効き方は人によってまったく違うのです。散歩で立て直す人もいれば、散歩中も考えごとが止まらない人もいる。自分にどれが効くかは、やってみた結果からしか分かりません。

そこで、リストを記録で育てます。やることは2つだけです。

  1. 使ったコーピングを、その日の記録に残す。気分とやったことをタグで記録しているなら、「散歩」「風呂」「友人」のタグがそのままコーピングの使用記録になります。
  2. 数週間たまったら、気分と突き合わせる。「散歩があった日は、ない日より気分が高め」「友人と話した翌日は持ち直している」——この重なりが見えたものが、あなたに効いていそうな手札です。リストの上位に置き、しんどい時期の最初の一手にします。

これは心理学でセルフモニタリングと呼ばれる方法の、いちばん軽い形です。印象では「効いた気がする」程度のことが、記録だと順位になって見えてきます。気分の記録のやり方そのものは気分の記録の記事に、たまった記録の見方は振り返りのやり方にまとめています。

正直な注意 — コーピングにも、効かない場面がある

2つ、知っておくと消耗を防げることを書いておきます。ひとつは、同じコーピングばかり使うと、効き目が鈍ってくることがあること。お気に入りの一手に頼り切るより、手札の幅を保つほうが長持ちします。もうひとつは、気晴らし(回避)に偏りすぎると、動かせたはずの問題がそのまま残ること。気持ちを整えたあとで、「これは変えられる問題だったか?」と一度だけ問い直すのがバランスのとり方です。

そして、いちばん大事な線引きを。コーピングはセルフケアの道具であって、治療ではありません。何をしてもつらさが和らがない、眠れない日が続く、生活に支障が出ている——そうしたときは、手札を増やすことよりも、医療機関や相談窓口(厚生労働省の「こころの耳」など)に頼ることを考えてください。人に助けを求めることも、立派なコーピングのひとつです。

よくある質問

Q. 問題焦点型と情動焦点型のコーピングは、どちらを使えばいいですか?

状況で使い分けるのが基本の考え方です。自分の行動で変えられる問題(仕事の段取り、頼み方)には問題焦点型を、自分では変えられない状況(他人の機嫌、過ぎたこと、天気)には情動焦点型を。変えられないものを変えようとし続けることも、変えられるものから目をそらし続けることも、どちらも消耗につながります。

Q. コーピングリストは、なぜたくさん用意したほうがいいのですか?

状況によって使える手札が変わるからです。職場では深呼吸はできても散歩には出られず、深夜には友人に電話できません。また、同じ方法ばかり使うと効き目が薄れてくることもあります。「お茶を淹れる」「窓を開ける」のような些細なもので構わないので、場面別に幅を持たせておくと、いざというとき選べます。

Q. コーピングと防衛機制は、何が違うのですか?

いちばん大きな違いは、意識的かどうかです。コーピングは「いまストレスを感じているから、こう対処しよう」という意図的な行動を指します。防衛機制は、不安から心を守るために無意識に働く心の動き(否認や抑圧など)を指す精神分析由来の概念です。自分で選んで使えるのはコーピングのほうです。

Q. コーピングリストは、いつ作るのがいいですか?

気持ちが落ち着いているときに作っておくのがおすすめです。ストレスのまっただ中では「何をすれば楽になるか」を思い出しにくいため、穏やかな日にあらかじめ手札を書き出しておくと、しんどいときは考えずに選ぶだけで済みます。一度に完成させる必要はなく、思いついたときに少しずつ足していけば十分です。

Q. コーピングは、何種類くらい知っておけばいいですか?

種類の数を覚えることより、「変えられる問題に効く型(問題焦点型)」と「変えられない状況で気持ちを整える型(情動焦点型)」の2つを軸に持っておくことのほうが実用的です。そのうえで、具体的な手札(深呼吸・散歩・人に話すなど)は場面別に幅広く用意しておくと、いざというとき選びやすくなります。

ひびつみ — どのコーピングが効いていそうか、記録が手がかりをくれる

気分とやったことをタップで選ぶだけ、10秒の日記アプリを作りました。たまった記録から「散歩があった日は、気分が+0.9」のような、あなたのデータの事実が返ってきます。自分に効く手札を、印象ではなく記録で。

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