「寝る前に、今日よかったことを3つ書く」。よかったこと日記(英語圏では Three Good Things と呼ばれます)は、日記の型の中でもとくに有名なもののひとつです。書くことが決まっていて、ポジティブで、短い。始めやすさでは申し分ありません。
ただ、実際にやってみた人なら知っているはずです。この日記には、しんどい週ほど書けなくなるという構造的な弱点があります。この記事では、よかったこと日記の良さを残したまま、義務にならない形に設計し直す方法を紹介します。
この型の価値は「ポジティブになれる」という漠然とした話ではなく、もう少し具体的です。探す目が変わるのです。
夜に3つ書くと決めていると、日中の頭の片隅に「あとで書くもの」を探すアンテナが立ちます。コーヒーがおいしかった。電車で座れた。夕方の空がきれいだった。書く行為そのものより、1日の中で良いものを拾う癖がつくことが、この日記のいちばんの見返りだと私たちは考えています。
もうひとつの効用は、読み返したときに来ます。よかったことだけが並んだ記録は、しんどい時期に読み返しても安全です。反省や暗い記述が混ざらないので、過去の自分のページが「開きたくない場所」になりにくいのです。
この型の元になっているのは、ポジティブ心理学の創始者セリグマンらが2005年に発表した研究です。一般の成人411名を対象に、「その日うまくいったこと3つと、その理由を1週間書く」課題を行ったところ、幸福感のスコアが上がり、抑うつ症状のスコアが下がったという報告があります。効果は6ヶ月後の測定でも続いていて、特に自主的に書き続けた人で大きかったとされています。
正確に受け取るために、2つ補足します。第一に、この研究の対象は一般の成人で、これは治療ではありません。心身の不調が続いているときは、日記より先に医療機関や専門家を頼ってください。第二に、起きる変化は「人生が変わる」というより、1日のどこに注意が向くかが変わるという静かなものです。誇大な宣伝文句よりは地味ですが、研究で裏が取れているのはこの範囲です。
一方で、挫折する人のパターンははっきりしています。「3つ」がノルマになることです。
調子のいい日は、3つなんてすぐ出てきます。問題は、何もなかった日と、明確にしんどかった日です。絞り出すように「……ご飯が食べられた」と書きながら、「こんなことしか書けない自分」にがっかりする。これが数日続くと、日記を開くこと自体が小さなプレッシャーになり、やがて開かなくなります。
皮肉なことに、よかったこと日記は気分が下がっている時期ほど難易度が上がる設計なのです。いちばん記録がほしい時期に、いちばん書きにくい。ここを直さずに「毎日3つ」を続けようとすると、真面目な人ほど折れます。
それでも「今日は本当に何もない」という日はあります。そういう日は、出来事を探すのをやめて、探す場所を変えてください。よかったことは、出来事の中だけにあるわけではありません。
風呂があったかかった。/ 昼に食べたうどんがうまかった。/ 思ったより眠れた。/ 布団が気持ちよかった。
頭痛が出なかった。/ 帰りの電車が混んでいなかった。/ 心配していた連絡が、悪い知らせじゃなかった。/ 雨に降られなかった。
店員さんの感じがよかった。/ 同僚がドアを押さえてくれた。/ 家族が先に風呂を沸かしていた。/ すれ違った犬がこっちを見た。
夕方の空の色がよかった。/ 風が涼しかった。/ 月がやけに大きかった。/ 道の花が咲きはじめていた。
とにかく仕事に行った。/ ちゃんと帰ってきた。/ 夜ふかしせずに布団に入った。/ 今日を終えられた。
視点⑤まで来ると「こんなことでいいのか」と思うかもしれませんが、いいのです。しんどい日に「今日を終えられた」と書けることは、絞り出した立派な出来事より、あとから読み返したときにずっと効きます。それでも書けない日は、書かなくて構いません。自分を責めない接し方も、この日記の一部です。
1ヶ月分たまったら、ぱらぱらと読み返してみてください。多くの人が気づくのは、自分のよかったことに同じ顔ぶれが繰り返し出てくることです。食べもの、散歩、人との会話、風呂。ランダムに見えて、自分の機嫌の源泉はけっこう決まっています。
これは小さくない発見です。「自分は何があると調子がいいのか」が、感覚ではなく自分の記録から見えてくる。気分の記録と組み合わせていれば、「散歩を書いた日は気分も高め」のような重なりも確認できます。よかったこと日記は、続けるほど自分の取扱説明書の材料になっていきます。
よく似た型に「感謝日記」があります。違いは対象の広さです。感謝日記は「人や環境への、ありがとう」に内容を絞る型で、よかったこと日記はもっと広く、感謝でなくてもいい(うどんがうまかった、でいい)。
どちらが優れているという話ではなく、書きやすさの好みです。人とのつながりを思い出すと調子が出る人は感謝日記が、対象を限定されると手が止まる人はよかったこと日記が向きます。迷うなら、枠の広いよかったこと日記から始めるほうがつまずきにくいはずです。
「寝る前に3つ書く」という型は、ポジティブ心理学の創始者であるセリグマンらの研究(2005年)で広く知られるようになりました。英語圏では Three Good Things と呼ばれます。日本では「いいこと日記」「3つのいいこと」など、いくつかの呼び方で広まっています。
1つで十分です。ゼロの日は「なし」と書くか、気分の点だけ打って閉じてください。出来事が見つからないときは、探す場所を変えるのが有効です。体の快、「なかった」こと、人の小さな動き、外の世界——本文の視点リストを参考にしてください。
セリグマンの研究の原法では「なぜそれが起きたか」も書きます。余裕がある日は理由まで書くと、よかったことの再現性(自分で増やせるかどうか)が見えやすくなります。ただし、負担に感じるなら省いて構いません。理由付きの3日より、一言だけの30日のほうが、得られるものは多いはずです。
気分5段階とやったことをタップで選ぶだけ、10秒の日記アプリを作りました。よかったことを書きたい日は一言メモに。書けない日も記録は途切れません。たまった記録から「散歩があった日は、気分が+0.9」のような、あなたのデータの事実が返ってきます。
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